睡眠不足による頭痛

睡眠不足はさまざまな健康上の問題を引き起こすことで知られていますが、頭痛もその1つです。
睡眠不足が続くことで持病の頭痛が悪化してしまうこともあります。
頭痛持ちの人にとって、睡眠不足は看過できない問題なのです。

更新日:2023/5/10

記事監修

スリープ・サポートクリニック

林田 健一 先生

1 睡眠不足と頭痛の関係

代表的な頭痛疾患として、まず挙げられるのが片頭痛です。命に関わるような疾患ではありませんが、痛みは強く、頭痛の発作を繰り返すのが特徴です。ストレスや天候の変化、温度、音、光など、頭痛を引き起こしたり、悪化させる因子はいくつかありますが、そのうちの1つが睡眠の過不足です1)。片頭痛患者を対象とした海外の調査では、49.8%が睡眠障害を有していたと報告されています2)

睡眠障害は、反復性片頭痛(頭痛は過去3カ月の間に月15回未満で、うち何回かが片頭痛)3)を慢性片頭痛(頭痛が月15日以上、うち8日以上は片頭痛様の頭痛)に移行させる危険因子でもあります4,5)。片頭痛持ちの人にとって、睡眠障害は大敵といえるわけです。片頭痛と並ぶ代表的な頭痛疾患に緊張型頭痛があります。緊張型頭痛の発症リスクの1つとしてストレスが挙げられますが6)、ストレスを引き起こし、蓄積させる要因の1つが睡眠不足です7)

睡眠不足は、自律神経失調症を引き起こす原因にもなります8)。自律神経失調症でも頭痛が起きることがあり、この場合は睡眠不足は頭痛の遠因といえます。

片頭痛の誘発因子・増強因子1)

精神的因子
ストレス、ストレスからの解放、疲労、睡眠の過不足
内因性因子
月経周期
環境因子
天候の変化、温度差、におい、音、光
ライフスタイル因子
運動、欠食、性的活動、旅行
食事性因子
空腹、脱水、アルコール、特定の食品

2 睡眠不足に伴う頭痛の対処法

睡眠不足によって起こることのある頭痛として、片頭痛や緊張型頭痛を紹介しました。この2つ、頭痛という点は同じでも起きたときの対処法は異なります。睡眠不足と頭痛の関連が疑われるときは、生じている頭痛の種類を把握したうえで対応することが大切です。

まず片頭痛ですが、急性期治療と予防療法があります9)。急性期治療は頭痛の発作が起きたときに薬で鎮める治療です。予防療法は、頭痛発作を起こりにくくするための治療です。これらの治療は頭痛の発作の回数や痛みの程度などに応じて使う薬の種類が変わってくることもあるため、きちんと医師の診断を受ける必要があります。発作中は光や音に過敏になることもあり、明るく、大きな音のするような場所は避けたほうがよいでしょう。

緊張型頭痛の治療は、反復性緊張型頭痛(月に1日未満~14日)であれば鎮痛薬による治療を行います。頻度が多い場合、もしくは慢性緊張型頭痛(3カ月を超えて、平均して1カ月に15日以上)の場合は、予防薬の内服のほか、ストレスマネジメント、リラクセーション、理学療法といった非薬物療法、首や肩の筋肉をほぐす頭痛体操なども推奨されています。10)

3 頭痛の原因はさまざま

少し脇道にそれますが、頭痛は睡眠不足以外にもさまざまな要因で生じます。先ほどの片頭痛にしても、頭痛発作につながる誘因は十指に余ります。

ここまでに挙げた片頭痛や緊張型頭痛、自律神経失調症にともなう頭痛は、命にかかわる疾患ではありませんが、頭痛の背後にはときに見落としてはならない要因が潜んでいることもあるので注意が必要です。

その最たる例がくも膜下出血です。発症すると命を落とすこともあり、一命をとりとめたとしても麻痺などの障害が残ることも少なくありません。脳腫瘍や慢性硬膜下血腫などによる頭痛も見落としてはならない頭痛といえます。

また、睡眠時無呼吸性頭痛のように、睡眠不足とは別の睡眠の問題が頭痛を引き起こすこともあります。その名のとおり睡眠時無呼吸を原因とし、眠りから覚めた朝に起こる頭痛です。睡眠時無呼吸が改善すると、多くの場合、頭痛も消失します11)

4 頭痛と睡眠の関連が疑われるときは

仮に頭痛があったとしても、適切な睡眠時間は人によって異なるので、それが睡眠不足や寝過ぎによるものかどうかの判断が難しいこともあります。睡眠の問題が頭痛の発症に関係していると疑われる場合は、医師に相談しましょう。

  1. 1)日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会監修: 頭痛の診療ガイドライン2021, P.104, 医学書院, 2021
    https://www.jhsnet.net/pdf/guideline_2021.pdf (最終閲覧日:2023年2月15日)
  2. 2)Kelman L.: Cephalalgia. 2007 May; 27(5): 394-402
  3. 3)日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会監修: 頭痛の診療ガイドライン2021, p.3, 医学書院, 2021
    https://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/zutsu_2021.pdf (最終閲覧日:2023年2月15日)
  4. 4)日本神経学会・日本頭痛学会・日本神経治療学会監修:頭痛の診療ガイドライン2021, p.3, 257, 医学書院, 2021
    https://www.jhsnet.net/pdf/guideline_2021.pdf(最終閲覧日:2023年2月15日)
  5. 5)日本頭痛学会国際頭痛分類(ICHD-3)日本語版, p.10, 医学書院, 2018
    https://www.jhsnet.net/kokusai_2019/1-1.pdf(最終閲覧日:2023年2月15日)
  6. 6)日本神経学会ガイドライン慢性頭痛診療ガイドライン2002, 臨床神経学, 2002
    https://neurology-jp.org/guidelinem/pdf/zutuu_03.pdf (最終閲覧日:2023年2月15日)
  7. 7)厚生労働省健康づくりのための睡眠指針2014
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf (最終閲覧日:2023年2月15日)
  8. 8)厚生労働省e-ヘルスネット
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html (最終閲覧日:2023年2月15日)
  9. 9)一般社団法人日本頭痛学会ホームページ
    https://www.jhsnet.net/ippan_zutu_kaisetu_02.html#01 (最終閲覧日:2023年2月15日)
  10. 10)一般社団法人日本頭痛学会ホームページ
    https://www.jhsnet/ippan_zutu_kaisetu_03.html (最終閲覧日:2023年2月15日)
  11. 11)日本頭痛学会・国際頭痛分類委員会訳:国際頭痛分類第3版, P139, 医学書院, 2018
    https://ichd-3.org/wp-content/uploads/2019/06/ichd3-Japanese_all.pdf(最終閲覧日:2023年2月15日)