1 更年期障害の症状
更年期障害の症状は大きく3種類に分けられます3)。
1-1 血管の拡張と放熱に関係する症状
ほてり、のぼせ、発汗など。
1-2 その他のさまざまな身体症状
めまい、動悸、胸が締め付けられるような感じ、頭痛、肩こり、腰や背中の痛み、関節の痛み、冷え、しびれ、疲れやすさなど。
1-3 精神症状
気分の落ち込み、意欲の低下、イライラ、情緒不安定、不眠など。
2 更年期障害の原因
体の変化に加え、心理的なストレスや社会的なストレスが複雑に相まって、さまざまな症状があらわれます3)。(図)
2-1 身体的な要因4)
- 女性ホルモンの減少
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女性が更年期を迎えると、卵巣の機能が衰え、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が大きくゆらぎながら低下していきます。これが更年期障害の主な原因です。
- 自律神経の乱れ
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ただし、単純に女性ホルモンの減少だけでは、多岐にわたる更年期障害の出現を説明できません。
卵巣は、脳の視床下部(ししょうかぶ)というところの司令を受けて、女性ホルモンを分泌しています。しかし加齢につれ、卵巣は視床下部の司令どおりに女性ホルモンを分泌できなくなります。卵巣の命令違反に視床下部はとまどい、その働きに乱れが生じます。
一方で、視床下部は、下の図のように女性ホルモンの分泌をコントロールするとともに、自律神経の司令塔でもあります。自律神経は、血管の収縮や拡張、免疫、消化機能、精神活動などを調節しています。
女性ホルモンのバランスが乱れると、同じ視床下部の司令下にある自律神経も影響を受けて変調をきたし、血管系の症状であるほてりやのぼせ、精神症状である気分の落ち込みなどを招くと考えられています。
2-2 心理的な要因5)
体の変調に加え、本人の性格などによる心理的ストレスが複雑にからんできます。
2-3 社会的な要因5)
職場や家庭での立場、子どもの結婚、親の介護など、40~50代の女性が抱える社会的ストレスも、更年期障害の出現を促します。
3 更年期の不眠症状
主な特徴を紹介します6)7)。
3-1 他の更年期障害の影響
血管系の症状であるほてりや発汗が夜間に起こると、睡眠が妨げられる場合があります。
また、更年期に多い、うつや不安も不眠と相互に関係します(不安があるから眠れない。眠れないから不安が強まる)6)。
3-2 心理的・社会的ストレスの関与
前述したように、更年期障害全般にいえることですが、心理的要因や社会的要因が不眠の出現に関与している場合があります6)。
3-3 入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒がともに増加
寝つけない(入眠障害)、夜中に起きて眠れなくなる(中途覚醒)、早朝に目覚めてしまう(早朝覚醒)という不眠症のタイプ別の有病率は、閉経前に比べ、周閉経期(更年期)にはそれぞれ1.16 ~1.49倍、1.26〜1.96倍、1.06〜1.53倍であったことが報告されています(海外データ)7)。
4 更年期の不眠の診断
更年期による不眠症かどうかを見極めるために、ほかの更年期症状の有無や程度を調べます。のぼせやほてりなどの血管系の症状がある場合には、更年期障害に伴う不眠症の可能性が高くなります8)。
5 更年期の不眠の対処法・治療
対処法
更年期の不眠の対処法には4つのポイントがあります。
- ①「適正な睡眠時間」を知る
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適切な睡眠時間は人によって異なります。比較的短くても平気な方や、長時間眠らないと生活に支障が出る方もいます。時間にこだわらずに、日中に眠気を感じない程度の長さで質の良い睡眠をとるように意識しましょう9)。
- ②「睡眠環境」を整える
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寝室を眠りに適した環境にしましょう。最適な室温は夏は「25~28℃」、冬は「15~18℃」です。エアコンなどを使って適切な環境にしましょう。
- ③「体内時計」をリセットしましょう
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毎朝同じ時刻に起きて太陽の光を浴びることで、体内時計がスムーズに回るようになり、睡眠のリズムが整います。朝10時までに光を浴びることをお勧めします。
- ④「運動&入浴」のタイミングに気を付ける
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寝る4時間前までに1万歩/日となるように歩くことが良いでしょう。入浴は寝る1時間前に40℃のお湯に20分程度入ることが良いとされています9)。お風呂に入れない人は膝から下の足浴でも大丈夫です。
治療
更年期の様々な症状を軽減するために、ホルモン補充療法がおこなわれます。また、その人の体質に応じて漢方薬が用いられることがあります3)。
不眠症によりQOLが著しく低下している場合には、不眠症治療薬を服用することもあります。
6 まとめ
不眠は更年期の女性の生活の質(QOL)を全般的に低下させます10)。にもかかわらず、本人や周囲の人が「なんとなく体調が悪い状態」(不定愁訴)と軽視し、医療機関への受診につながらないケースも少なくないようです。
眠れないことを一人で思い悩むあまり、睡眠へのこだわりが強くなりすぎると、不安や緊張、恐怖が高まり、ますます眠れない状態になってしまいかねません。不眠が続いたり、日常生活に支障が出たりするようなら、医療機関に相談してみましょう。
- 1)内山 真 編集. 睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版, じほう, P.163, 2019
- 2)厚生労働省 e-ヘルスネット 女性の睡眠障害
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-005.html (最終閲覧日:2023年2月15日) - 3)日本産科婦人科学会ホームページ
https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=14 (最終閲覧日:2023年4月7日) - 4)津島ルリ子:プレ更年期1年生, つちや書店, P.22-23, 2019
- 5)寺内公一:ねむりと医療 vol.4 no.1, P.26-29, 2011
- 6)寺内公一: 睡眠医療. 2021;15:327-332
- 7)Kravitz HM, et al: Sleep 31(7): 979-990, 2008
- 8)神崎秀陽 編:更年期・老年期外来ベストプラクティス, 医学書院, P.187 2012
- 9)厚生労働省ホームページ 健康づくりのための睡眠指針2014
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf (最終閲覧日:2023年2月15日) - 10)Terauchi M, et al: Climacteric 13 (5): 479-486, 2010