高齢者の睡眠問題とは?
特徴や理想の睡眠時間を専門家が解説

高齢者が訴える睡眠の悩み

「若い頃のように眠れない」とクリニックを受診する高齢の方がいます。「眠れない」の意味するところはさまざまですが、その多くは不眠に関連する症状です。よく聞く訴えとしては、「睡眠時間が短くなった」「夜中に何度も目が覚める(中途覚醒)」「布団に入ってから寝つくまでの時間(睡眠潜時)が長くなった」「ぐっすり寝た気がしない」「日中も眠気やだるさがある」などが挙げられます。

このような不眠の要因は、主に「生理的変化」「ライフスタイルの変化」「病気によるもの」の3つに分けられます。

高齢者の睡眠の特徴―生理的変化

夜間の平均的な睡眠時間は、加齢とともに短くなります。25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳は約6時間と報告されています1)

脳波を用いた健康人の年齢と睡眠時間。加齢と共に夜間の平均的な睡眠時間が短くなっているのを表した図表。

対象:5歳から102歳までの3,577人の健康人(1960〜2003年に出版された文献の65研究より抽出した)

方法:睡眠ポリグラフまたはアクチグラフィーにより睡眠時間、睡眠段階1、睡眠段階2、徐波睡眠、レム睡眠を計測し、メタアナリシス解析を実施した。

睡眠段階1、睡眠段階2、徐波睡眠、レム睡眠を合計したところが、睡眠時間となる。
睡眠潜時と中途覚醒は就床後の覚醒時間に入る。

睡眠潜時:寝つくまでにかかる時間
中途覚醒:夜中に目が覚めている時間
レム睡眠:夢を見ている睡眠
徐波睡眠:深い睡眠
睡眠段階1-2:浅い睡眠

Maurice M. Ohayon, et al, Meta-Analysis of Quantitative Sleep Parameters From Childhood to Old Age in Healthy Individuals:Developing Normative Sleep Values Across the Human Lifespan, SLEEP. 2004; 27(7), 1255-1273, by permission of Oxford University Press. を元に作成

睡眠の量だけでなく質も加齢とともに変化します1)。中途覚醒が増え、ノンレム睡眠のうち深い睡眠に相当する徐波睡眠が減ります1)。一方で浅い眠りである睡眠段階1は増えます1)。「ぐっすり寝た気がしない」と感じるのは、こうした変化が関係していると考えられます。

また、高齢者は早寝早起きの人が多いとされますが、これは加齢による体内時計の変化とともに、血圧や体温、ホルモン分泌など睡眠に関わる生体機能リズムが前倒しになるからです2)。日中に眠気を催す、ウトウトすることも増えます。

身体が必要とする睡眠時間は歳を取るほど短くなります。強調したいのは、睡眠時間が減るからといって、それが健康に悪影響を及ぼすとは限らないということです。睡眠の変化は、しわが増える、目が見えづらくなるといった加齢変化の1つと考えることもできます。

このような変化を「歳をとったから仕方がない」と受け止められる人は、おそらくクリニックを受診しません。ただ、睡眠時無呼吸症候群など生理的変化とは別の要因で、不眠が生じていることもあります。高齢者の睡眠の問題のすべてが歳のせいというわけでなく、何らかの病気に起因する場合があることも頭の片隅に入れておくことが大切です。

高齢者の睡眠の特徴―ライフスタイルの影響

仕事を退職すると、日中の自由な時間が増えます。しかし、その時間はあまりに長く、持て余し気味の人も少なくありません。働いていたときほど外出もせず、身体を動かしたり、人と会ったりする機会も減ります。日中は家にいて、特に何をするでもなく横になっている、あるいは座って過ごす時間が長くなる傾向があります。

また、高齢になるほど寝床に入っている時間が長くなることも報告されています2)

10代から80代の10代刻みで入床・起床時間がプロットされており、加齢と共に、寝床にいる時間が多くなっているのを表した図。

厚生労働省 e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-004.html (最終閲覧日:2023年11月17日)

歳を取って目が見えづらくなったり、耳が聞こえづらくなったりすると、テレビや読書なども楽しめず、早く布団に入りがちです。「やることがない。寝るしかない」と話す方もいます。ただ、生理的変化により睡眠時間そのものは短くなるわけですから、寝たいのに寝れない状態で布団で過ごす時間が長くなり、睡眠の満足度は低下してしまいます。

配偶者との死別や独居などにより、心理的ストレスが生じることも少なくありません。心身や免疫機能の低下により、病気にもかかりやすくなります。これらに加え、治療に用いる薬の副作用などによって、不眠が引き起こされることもあります。

理想の睡眠時間は?

クリニックで不眠を訴える高齢者と接していて感じるのは、治療目標を高く設定する傾向があるということです。「8時間は寝たい」など、若い頃と同じような睡眠を望まれる方が少なくありません。

そうした思いは、しばしば不適切な睡眠習慣につながります。たとえば睡眠時間が短くなったことに不安に感じ、「睡眠が足りていない」と早めに就床します。しかし、「寝ないといけない」という思いが強すぎると、布団の中で悶々としてなかなか寝つけません。中途覚醒も増えるなど、かえって睡眠の質が悪化する悪循環に陥ってしまうこともあるのです。

先ほど、歳を取るにつれて睡眠時間が減ること、具体例として65歳の平均睡眠時間が6時間であることに触れました。若年時と比べて1~2時間ほど睡眠時間が短くなるのはごく普通のことであり、多くの場合、問題ないのです。

そのことを示す一例として、私がよく患者さんに説明するのが、九州大学による疫学調査・久山町研究です。睡眠時間と認知症の発症率、死亡率などの関連を調べたところ、発症率と死亡率ともに、睡眠時間が5.0~6.9時間の群が最も低いという結果でした3)。結果だけみれば、若い頃並みに寝るほうが認知症などのリスクが高くなるとの報告でした。

ただし、誰もが6時間の睡眠をめざすというのも現実的ではありません。必要な睡眠時間には個人差があります。大切なのは、目標を高くしすぎないことです。私は「若い時に8時間寝ていた人なら目標は7時間くらい。マイナス1時間をめざすくらいでちょうどよいのでは」と指導しています。

より良い睡眠のために―夜間の対応

若い頃のように眠るのは難しいにしても、睡眠時間を一定程度増やすこと、睡眠の質を高めることは可能と考えます。そのための治療法の1つが睡眠スケジュール法です。睡眠日誌をつけ、布団に入っている時間(床上時間)をはじめ、睡眠習慣の問題点を把握します。その記録をもとに適切な就床/起床時刻を設定するなどして、床上時間の修正を図ります。

睡眠衛生指導に基づいた生活習慣を心掛ける、睡眠の環境を整えることも大切です。具体例として、寝る2、3時間前に入浴して体を温める、夕方以降はアルコールやカフェインを控える、温度や湿度など寝室の環境を整えるなどの対応が挙げられます4)。本人が意欲的にこのような睡眠衛生に取り組んでいくことは、睡眠への満足度を高める助けになります。

高齢者に対する睡眠衛生指導
1 睡眠時間
  • 加齢とともに睡眠時間は短縮するが、床上時間は逆に長くなる
  • 床上での覚醒時間が長いことは不眠症状が強まる要因になる
  • 8時間睡眠を目指さず、5~6時間程度の睡眠時間でも良しとする
2 就床時刻
  • 就床時刻が早すぎると入眠困難が生じ、中途覚醒も増加する。眠気が十分に強まるまでは就床しない(させない)
3 昼寝と入浴
  • 昼寝は少なめに(午後の早い時間まで)
  • 夕方以降の入浴・半身浴(就寝2~3時間前)は睡眠促進効果がある
4 生活環境
  • 日光を浴びる。家庭照明だけでは体内時計は十分に調整されない
  • 就寝環境を整える(室温や湿度による中途覚醒も多い)
5 嗜好品
  • 夕方以降はアルコール、カフェイン、ニコチンを控える
6 合併疾患
  • 疼痛、掻痒、頻尿などへの対処(夕方以降は水分を控える)

三島 和夫 編. 睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン, じほう, P.88, 2014 を元に山下先生作成

以上のような対応のほか、寝つくまでに時間がかかる、夜中に何度も目が覚める、日中もだるさや眠気などが残るといった不眠症の症状に対しては、それぞれに合わせた不眠症治療薬を用いることも選択肢となります。

より良い睡眠のために―日中の対応

夜間の睡眠の問題は、翌日にも影響を及ぼします。日中にだるさを感じる場合は、家事やストレッチなど、息が上がらない程度に体を動かすとよいでしょう。固まった筋肉をほぐすだけでも、だるさは軽減されることがあります。だるいからとずっと横になっていると、体が固くなり、筋肉量も低下、ますますだるくなるという悪循環を生みかねません。

自治体が開く講座など、定期的に外出する機会を持つことも大切です。仮に1時間程度だとしても、外出前は着替えなどの準備をして、目的地まで歩き、人と会話するときは頭を使います。日中に適度な疲労感を得ることで、夜の寝つきによい影響も期待できます。

朝すっきり起きられない場合は、体内時計が後ろにずれている可能性が考えられます。起床後はカーテンを開けて朝の光を浴びましょう。ずれを元に戻す助けになります。逆に早く目覚めてしまう場合は、漫然と布団の中で過ごさないことが肝心です。たとえば5時に目が覚めるようなら、遅くとも6時には布団から出るとよいでしょう。

取材:
2023年11月オンライン取材(場所 みんなの睡眠・ストレスケアクリニック)
  1. 1)Ohayon M, et al. SLEEP. 2004; 27(7), 1255-1273
  2. 2)厚生労働省 e-ヘルスネット
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-004.html (最終閲覧日:2023年11月17日)
  3. 3)Ohara T, et al. J Am Geriatr Soc. 2018 Oct; 66(10), 1911-1918
  4. 4)三島 和夫 編. 睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン, じほう, P.88, 2014