医療機関での治療

睡眠の問題を抱えていても、薬物治療などに対する不安から受診を控えてしまう人は少なくありません1)
ですが、20人に1人が不眠症治療薬を服用しているとされる昨今2)、病院で不眠症の治療を受けるのはめずらしいことではないのです。
最近は睡眠医療の専門家による医師に相談するだけで解消される疑問や不安もあるので、
睡眠の悩みがある方は医師に相談してみましょう。

更新日:2023/5/10

記事監修

スリープ・サポートクリニック

林田 健一 先生

1 睡眠外来など医療機関での治療の流れ

睡眠外来など医療機関での不眠症の治療は、まず患者さんの不眠の症状を把握して、睡眠衛生指導を行います。生活習慣や睡眠環境の改善を図りつつ、不眠症が十分に改善しない場合は、薬物治療を開始します。不眠症状や日中の不調(日中の倦怠感や眠気)が改善すれば徐々に薬の量を減らし、最終的には中止します。その後も安定した状態が保たれていれば、治療完了というのが大まかな流れです3)

1-1 症状の把握

診察では、入眠困難や中途覚醒、早朝覚醒といった夜間の不眠症状について確認します。症状の背景に不安や抑うつに伴う過覚醒(神経がたかぶり体が緊張している状態)、夜型生活や夜勤によるリズム異常などがないかどうか、既往歴や服用中の薬、眠気や倦怠感など日中の不調の有無や程度についても詳しく聞いていきます。
また、生理的な加齢変化による不眠症状かどうかの見極めも重要です。高齢になるほど睡眠時間は短く、浅くなる傾向があります4)。この場合、不眠症状があっても日中は特に問題なく過ごせていることも多く、治療を必要としないことも少なくありません。

1-2 睡眠衛生指導

医師の指導のもとで、睡眠衛生に関する正しい知識を身につけつつ、生活習慣や睡眠環境における良質な眠りを妨げる問題点を改善していきます。

1-3 薬物治療

睡眠薬は種類が複数あります。効果が期待できる不眠症状や作用機序、作用時間はそれぞれ違います。医師と相談し、不眠症状や程度、原因、服用中のほかの薬剤、過去の服用歴などを考慮のうえ、選択することになります。認知行動療法(不眠症に影響をおよぼす生活習慣や過覚醒などの身体反応をカウンセリングなどで修正し、不眠症状の改善をめざす療法)を並行して行うこともあります。
薬物療法や認知行動療法の効果が思わしくない場合は、そもそもの診断や治療が適切かどうか、再評価を行います。脳波上は睡眠状態にあっても本人は眠っていないと認識している睡眠誤認状態に陥っていないか、不眠の症状が概日リズム睡眠・覚醒障害や睡眠時無呼吸症候群など不眠症とは別の睡眠障害によるものではないか5)、あらためて確認します。

1-4 治療の終わりに向けて

治療がうまくいき不眠症状などの改善傾向が続けば、現在の治療をいつまで続けるか、治療のゴールを設定します。不眠症状の再発や再燃を避けるため、睡眠薬はいきなり中止せず、段階的に量や服用回数を減らしていきます。睡眠薬を中止したあとも、夜間の不眠症状や日中の不調がない安定した状態が一定期間保たれていれば治療終了となります。

  1. 1)睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン,p.7,2013
    https://www.jssr.jp/data/pdf/suiminyaku-guideline.pdf(最終閲覧日:2023年5月10日)
  2. 2)三島和夫編集:睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン, じほう, P.1, 2014
  3. 3)三島和夫編集:睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン, じほう, p.37, 2014
  4. 4)古池保雄監修:基礎からの睡眠医学, 名古屋大学出版会, p.31-32, 2010
  5. 5)三島和夫編集:睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン, じほう, p.42, 2014