アルコールによる不眠の原因と対処法

寝つきを良くするために睡眠薬の代わりに飲酒をすること(いわゆる寝酒)は、
睡眠の質や健康のことを考えると逆効果となります。

更新日:2023/11/28

記事監修

医療法人社団絹和会 睡眠総合ケアクリニック / 理事長

井上 雄一 先生

1 アルコールが睡眠の質を下げる理由

アルコールには一時的には寝つきを良くする効果1)がありますが、主に以下のような理由で、睡眠障害を引き起こす原因となります。

① 眠りが浅くなる1)

睡眠は、深い眠りと浅い眠りが交互に繰り返されるサイクルで構成されています。しかし、アルコールを摂取するとこのサイクルが乱れ、特に睡眠の後半で深い睡眠の減少、浅い睡眠の増加が生じやすくなります1)。深い睡眠には、脳や交感神経、身体を休息させる役割があるため、アルコールの摂取により、熟睡感や休息感が得られず、疲労感が残ることがあります。

② 中途覚醒・早朝覚醒の増加1,2)

アルコール摂取による睡眠後半の深い睡眠の減少や利尿作用によって、頻繁に目が覚めたり、十分な睡眠を取れなかったりすることがあります。

③ 睡眠時無呼吸症候群の悪化につながる3)

アルコールには筋肉の緊張を緩める作用があるため、空気の通り道(上気道)を支える筋肉も緩み、気道閉塞を起こす場合があります。そのため、睡眠時無呼吸症候群の症状を抱える人では、寝酒により症状が悪化する可能性があります。睡眠時無呼吸症候群では、睡眠中に呼吸が止まることにより低酸素状態となり、交感神経活動が高まりやすくなります。その結果、夜中に息苦しくて目が覚めたり、脳や体がリラックスできず熟睡感や休息感が得られなかったりすることがあります。

2 アルコールが及ぼす健康への影響

寝酒により一時的に寝つきが良くなるなどの効果を感じることがありますが、徐々にアルコールに体が慣れてしまい耐性が生じることもあります1)。耐性が生じると、それまでと同じアルコール摂取量では入眠が困難となるため、摂取量が増加する傾向に陥りやすくなります2)。アルコールの過剰摂取は、睡眠の質を低下させるだけでなく、肝障害の原因となり2)、様々な健康障害を引き起こす恐れがあります。

また、アルコールには依存性があるため、飲酒をきっかけに飲酒量が増えることで、アルコール依存症になる可能性もあります2)。アルコール依存症になると飲酒の制御が困難となり、身体的、精神的な悪影響をもたらすだけでなく、仕事や家庭上のトラブルが増えるなど社会的にも大きなリスクを伴いますので、寝つきを良くする目的での飲酒は絶対に避けましょう。

3 寝酒に頼らず睡眠薬を上手に利用しましょう

我が国においては、一般男性の37.4%、一般女性の10.0%が寝酒をしているという調査結果があります4)。男性では各世代で寝酒をする割合が女性よりも高く、特に50~59歳男性では、50.3%が寝酒をしていることも報告されています4)。一方で、眠るために睡眠薬を常用する人の割合は寝酒をする人に比べ低く、一般男性で3.0%、一般女性で3.9%であると報告されています4)

テレビ、新聞、インターネットなどのメディアが報道する睡眠薬に関する事故や副作用などの情報の影響で、睡眠薬に対し悪いイメージを持っている人も少なくないと思います。しかし、今日広く使われている睡眠薬では、アルコールのような睡眠後半での睡眠の悪化は起こしにくいと考えられています2)。耐性や身体依存性を形成しにくい睡眠薬もありますので、これを適切に使用すれば睡眠薬はアルコールに比べ安全性が高いと考えられます2)

不眠の悩みを抱えている方は、睡眠薬代わりの寝酒は避け、医療機関への受診を検討してみてください。本Webサイトでは、睡眠に関する相談が可能な医療機関検索ページをご用意しております。ぜひご活用ください。

  1. 1)三島和夫編集:睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン, じほう, P.70-72, 2014
  2. 2)内山真編集:睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版, じほう, P.143, 2019
  3. 3)一般社団法人山口県医師会. 健康教育テキストNo. 41 睡眠時無呼吸症候群, 2022
  4. 4)Kaneita Y, et al. Sleep Med. 2007; 8(7-8): 723-732