睡眠時無呼吸

事故や生活習慣病のリスクを高める睡眠障害の一つである睡眠時無呼吸について紹介します。

1 睡眠時無呼吸とは

睡眠中に何度も呼吸が止まったり(無呼吸)、浅くなったり(低呼吸)する病気の総称です。深い睡眠を安定してとることができないため、昼間に強い眠気におそわれたり、集中力・判断力が低下したりし、仕事での失敗や事故を招くこともあります。また、糖尿病や心臓病のリスクを高めることも知られています1)

1-1 呼吸と睡眠障害

睡眠中に無呼吸や低呼吸があると、血液中の酸素濃度が低下します。すると脳が一時的に覚醒し、呼吸が再開しますが、眠りに入るとまた無呼吸・低呼吸に戻ってしまいます。これを一晩中繰り返すため、深く長い眠りをとることができず、日中に強い眠気が出現することがあります1)

2 睡眠時無呼吸の有病率

睡眠障害のなかでは不眠症と同様に多い病気です。30~60歳の男性の2割程度、女性の1割弱(海外データ)2)で、加齢に伴い増加する3)と報告されています。

3 睡眠時無呼吸の種類

睡眠時無呼吸は、「閉塞性」と「中枢性」に分類されますが、ほとんどを閉塞性が占めています4)

3-1 閉塞性睡眠時無呼吸

のどの筋肉や舌の付け根などにふさがれて気道が狭くなり、睡眠中に呼吸が止まったりします。睡眠の質が低下し、日中強い眠気に襲われることがあります5)

3-2 中枢性睡眠時無呼吸

脳や心臓の機能不全のために、呼吸する努力がなくなったり、減ったりことを繰り返します4)

4 閉塞性睡眠時無呼吸の症状6)

  • 大きないびき
  • 不眠症状
  • いびきのあと、10秒以上続けて呼吸が止まったり(無呼吸)、浅くなったりする(低呼吸)
  • 呼吸停止、あえぎ、窒息感とともに目覚めることがある
  • 夜間の頻尿
  • 覚醒時の倦怠感や頭痛
  • 日中の強い眠気、集中力や判断力の低下

5 睡眠時無呼吸の社会生活や家庭生活への影響

交通事故、労働災害、勉強・作業能力の低下、家庭の問題、抑うつ状態、生活の質(QOL)の低下等のリスクがあります6)

6 閉塞性睡眠時無呼吸の体への影響

夜間の無呼吸や低呼吸が長期間繰り返されることで、さまざまな病気のリスクが高まります7)

6-1 心臓や血管への影響

心循環器系の合併症として、高血圧、冠動脈疾患、うっ血性心不全、脳卒中などの危険が認められます。睡眠時無呼吸が心房細動の発症と再発に関連していることを示唆する医学的根拠もあります6)

6-2 糖尿病への影響

睡眠時無呼吸が2型糖尿病発症の危険因子であることが示唆されています6)

7 睡眠時無呼吸の可能性を上げる要因6)

  • 肥満
  • 脂肪が多く短い首
  • 小さな顎(あご)

8 閉塞性睡眠時無呼吸の対処法6)

体重を減らす

肥満に伴って無呼吸・低呼吸が生じている場合には、減量をすると、症状が改善することがあります。

横向きに寝る

仰向けに寝ると気道が閉塞されやすくなります。軽症の場合は、抱き枕などを利用して横向きに眠る習慣をつけると、無呼吸の回数を減らすことができる方が半数程度います。

アルコールを控える

寝酒を飲む人も多いですが、アルコールは無呼吸を悪化させるため、控えたほうがよいです。

9 睡眠時無呼吸の治療6)

生活改善に加え、種々の治療法があります。睡眠時無呼吸の種類によって、治療法が異なります。

閉塞性睡眠時無呼吸

CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸)療法

鼻にとりつけたマスクから一定の圧力で空気を送り込み、睡眠中の気道の閉塞を防ぎます。在宅での医療保険の適用になる場合もあります。

口腔内装置治療

マウスピースのような装具を用いて、睡眠中に舌の付け根が気道を塞ぐのを防止します。比較的軽症の方に行われます。

外科的治療

耳鼻咽喉科的な診断・評価のうえで、気道を塞ぐ口蓋扁桃などの摘出手術を行う場合があります。呼吸に合わせて電気刺激をする装置を埋め込む手術もあります。

中枢性睡眠時無呼吸

原因となる病気の治療

脳卒中や心不全が原因と考えられる場合は、原因となる病気自体の治療や生活改善が行われます。

CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸)療法

CPAP療法や夜間在宅酸素療法が行われることもあります。

10 まとめ

近年、睡眠時無呼吸はよく知られるようになり、自分から疑って受診する人も増えています。この病気は心臓病や糖尿病の発症リスクを高めたり、交通事故や労働災害につながったりする可能性もあるので、上に挙げた症状に思い当たる場合は医療機関に相談してください。

  1. 1)厚生労働省e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-026.html(最終閲覧日:2022年11月1日)
  2. 2)井上雄一他編集:睡眠呼吸障害Update2022, ライフ・サイエンス, P2-6, 2022
  3. 3)井上雄一他編集:睡眠呼吸障害Update2022, ライフ・サイエンス, P40-45, 2022
  4. 4)百村伸一他:日本内科学会雑誌;108(7):1454-1462, 2019
  5. 5)井上雄一他編集:睡眠呼吸障害Update2022, ライフ・サイエンス, P83-89, 2022
  6. 6)内山真編集:睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版,じほう,p.222-226, 2019
  7. 7)内山真編集:睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版, じほう, P.223, 2019