生活習慣病と睡眠障害の深い関係と対策

生活習慣病と睡眠障害の関係について解説しています。
睡眠不足は肥満の原因になる等、互いに悪い影響を与え合うことがあるため、
それぞれに対し対策を講じることが大切です。

更新日:2023/12/11

記事監修

医療法人社団絹和会 睡眠総合ケアクリニック 理事長

井上 雄一 先生

1 睡眠不足が肥満の原因となる

睡眠と生活習慣病との深い関係

厚生労働省e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html
(最終閲覧日:2023年7月24日)

慢性的な睡眠不足は日中の過度な眠気を引き起こす原因となるだけでなく、体内のホルモン分泌や自律神経機能にも大きな影響を及ぼすことが知られています1)

人の体内には食欲を抑えるホルモンである「レプチン」と、食欲を高めるホルモンである「グレリン」が存在しますが、これらのホルモンは、ごくわずかな寝不足によっても影響を受けます1)。例えば、健康な人でも一日10時間たっぷりと眠った日に比較して、寝不足(4時間睡眠)をたった二日間続けただけでレプチン分泌は減少し、逆にグレリン分泌が亢進していたことが報告されています(海外データ)2)。ヒトの体は、脂肪を蓄積し分解を抑える作用が夜間に働きやすいため、特に夜遅い時間の食べ過ぎは肥満を招きやすくなります1)。肥満は、糖尿病や脂質異常症・高血圧症・心血管疾患などの生活習慣病の発症に関与しますので3)、良質な睡眠を確保することも生活習慣病対策として重要です。実際に、平均睡眠時間が6時間以下の人では、7~9時間の人と比べ肥満に陥りやすく、冠動脈性心疾患、脳血管疾患、糖尿病に罹りやすかったことが報告されています(海外データ)4)

2 生活習慣病や不眠と関わりの深い睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群は代表的な睡眠障害の一つであり、眠り出すと呼吸が止まってしまう病気です。呼吸が止まると血液中の酸素濃度の低下によって目を覚まし、呼吸できるようになりますが、再び眠るとまた呼吸が止まり目を覚ますことが繰り返される場合があります5)。そのため、深い睡眠を十分にとれなくなり、日中に強い眠気が生じることがあります。血液中の酸素濃度が低下すると「交感神経の緊張(血管収縮)」、「酸化ストレスや炎症」、「代謝異常(レプチン抵抗性・インスリン抵抗性)」などを招きやすくなり、高血圧、糖尿病、心疾患、脳血管障害などを発症するリスクが高まる恐れがあります6)

特に肥満の人では、咽頭周囲の軟部組織が増大することにより上気道が狭くなりやすく、肥満は閉塞性睡眠時無呼吸の最大の要因であるといわれています7)

睡眠不足や睡眠障害、子どもへの大きな影響

厚生労働省e-ヘルスネット「睡眠不足や睡眠障害、子どもへの大きな影響」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-003.html
(最終閲覧日:2023年9月11日)

3 生活習慣病と睡眠障害はどちらも対策が必要

睡眠障害は、生活習慣病の原因となるだけでなく、生活習慣病によって引き起こされる場合や、生活習慣病から肥満とこれに伴う閉塞性睡眠時無呼吸のために引き起こされる場合もあります。

Kamath J, et al. Psychiatr Clin North Am. 2015 Dec; 38(4): 825-841.を元に作成

そのため、質の高い睡眠生活を維持するには、規則正しい睡眠習慣を持つだけでなく、規則正しい食習慣・運動習慣も含む健康的な生活習慣を心がけ、生活習慣病予防に取り組むことも大切です。
生活習慣病が関係している病気と睡眠障害との関連性については様々な研究結果が報告されていますが、例えば海外の研究では、高血圧患者の47.9%で不眠症を併発していたことが報告されています8)

また、睡眠障害は、生活習慣病のような身体的損害だけでなく、仕事の生産性低下や交通事故発生リスクの増加など、社会的な影響を及ぼすことも問題視されています。睡眠障害をこのような問題に発展させないためにも、早期の診断が重要です。

本Webサイトでは、睡眠に関する相談が可能な医療機関検索ページをご用意しておりますので、睡眠に関するお悩みのある方はぜひご活用ください。

  1. 1) 厚生労働省e-ヘルスネット「睡眠と生活習慣病との深い関係」
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html(最終閲覧日:2023年7月24日)
  2. 2) Spiegel K, et al. Ann Intern Med. 2004; 141(11): 846-850.
  3. 3) 厚生労働省e-ヘルスネット「肥満と健康」
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-001.html(最終閲覧日:2023年7月27日)
  4. 4) Liu Y, et al. Sleep. 2013; 36(10): 1421-1427.
  5. 5) 厚生労働省e-ヘルスネット「睡眠時無呼吸症候群 / SAS」
    https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-026.html(最終閲覧日:2023年7月27日)
  6. 6) 三島和夫編集:睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン, じほう, p.13-15, 2014
  7. 7) 一般社団法人日本呼吸器学会監修, 睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン作成委員会編集:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
  8. 8) Prejbisz A, et al. Blood Press. 2006; 15(4): 213-219.