女性特有の不眠とは?
女性ホルモンと睡眠の関係について専門家が解説

女性の不眠は、女性ホルモンと密接に関係していると考えられています。
また、年代によっても不眠の原因に特徴があるといわれています。
女性のヘルスケアを専門とするドクターが、女性の不眠の特徴や対応について解説します。

更新日:2024/9/10

記事監修

東京医科歯科大学 大学院医歯学総合研究科 茨城県地域産科婦人科学講座 教授

寺内 公一 先生

女性は自分の睡眠に不満を感じている?

アメリカで行われた100万人以上を対象にした調査1)では、不眠の訴えは、どの年代においても男性より女性のほうが多く、かつ50歳前後で急速に増えていました(図1)。また、厚生労働省が行った平成元年の国民生活基礎調査2)をみると、40代、50代の女性では、睡眠時間が少なくなる傾向がありました。どちらの調査も主観的な訴えに基づいたものですが、女性のほうが不眠を訴えたりする割合が高く、更年期になるとその訴えが増える、ということが言えるかもしれません。

図1:不眠を訴える男女の比率と年齢(海外データ)。中でも50歳前後を境に女性の割合が約10%ほど上昇しているのが指し示されたグラフ。

調査概要:1960~1961年にかけて、米国の地域住民約100万人に行った質問形式の調査を元に分析した。
Hammond EC. Am J Public Health Nations Health. 1964; 54(1), 11–23 を元に寺内先生作成

女性ホルモン(エストロゲン)と不眠の関係

女性の不眠の原因の一つには、女性ホルモンであるエストロゲンの影響が考えられます。女性の生涯においてエストロゲンの分泌量が大きくゆらぐ時期は「初経の時期」「妊娠・出産の時期」「閉経の時期」ですが、特に閉経前の5年間と閉経後の5年間とを併せた更年期にエストロゲンの分泌量は乱高下しながら劇的に減っていきます3)(図2)。閉経期では、このエストロゲンのゆらぎに心理的・社会的ストレスが加わるなどして、不眠が起こりやすくなると考えられます。

図2:女性ホルモン(エストロゲン)分泌量イメージ。女性ホルモンが、思春期から分泌量が急激に上がり、更年期の乱下降を経て、老年期に下がっていく線グラフ。

麻生 武志, 寺内 公一, 宮原 富士子 編著. ホルモン補充療法 改訂版, 医薬ジャーナル社, P.12-15; 2012 を元に寺内先生作成

女性特有の不眠の原因とは

女性の不眠を性成熟期、更年期、老年期に分けて説明していきます。

性成熟期

性成熟期の不眠の原因の一つに月経の問題が考えられます。月経周期の中で女性ホルモンの分泌量はゆれ動いています。排卵から月経までの期間(黄体期)には、女性ホルモンのプロゲステロン(黄体ホルモン)が多量に分泌されます。黄体期の後半にプロゲステロンの分泌量が急激に低下して脳内のホルモンや神経伝達物質の異常が生じ、月経前症候群と呼ばれるさまざまな症状が生じます。この症状の中に、眠気や睡眠障害も含まれています4)

また、脳内のホルモンや神経伝達物質の異常には、さまざまな日常生活のストレスも影響しています4)。20~30歳代の半ばはストレスでバランスを崩し問題が生じやすい時期です。仕事や家庭のストレスで脳内のホルモンや神経伝達物質の異常が生じた結果、不眠症状が現れることがあります。また、30歳代後半~40歳代半ばは卵巣機能が低下し始め、不眠など心身の不調を感じる人もいます5)

更年期

更年期の不眠は、複数の原因が絡み合っています。そのため患者さんの多くはいくつもの症状を訴えることがありますが、よく話を聞くと一番困っている症状は不眠だというケースが往々にしてあります。

更年期にエストロゲンの分泌量は乱高下しながら劇的に減っていきます。この時期の女性に不眠の症状が増えることから、エストロゲンの減少が不眠の一因であることが推測されます。また、閉経前に比べ閉経移行期から閉経後にかけては、不眠症を構成する入眠障害・中途覚醒・早期覚醒の問題が増えることがわかっています6)

また、更年期には、うつ・不安を訴える女性が増えることも知られています7)。うつ・不安の症状が原因で眠れなくなることもありますし、逆に眠れないということがうつ・不安の症状を悪化させることもあります。

閉経に伴う一般的な症状のVMS(vasomotor symptoms. 血管運動神経症状。のぼせ・ほてりや発汗など)で夜中に目が覚めてしまい、そこから眠れなくなることがあります。逆に眠れないということがVMSを悪化させることもあるようです。

更年期は、図3のように不眠、うつ・不安、VMSという3つの症状が互いに影響し合っています。さらに、エストロゲンのゆらぎや急激な低下がVMSやうつ・不安の悪化に影響し、結果的に不眠を引き起こすことがあります8)

図3:周閉経期におけるVMS、うつ・不安と不眠との関係。互いに影響を及ぼす関係性を表したダイアグラム。

寺内 公一. 産科と婦人科, 84(8), 962-967, 2017

老年期

老年期になると、不眠の原因は男女共通の問題へ変わっていきます。高齢になると男女の区別なく「睡眠時間は短く」「中途覚醒が多く」なっていく傾向があり、若い頃にくらべて早寝早起きになります9)。これは体内時計の加齢変化によるもので、病気ではありません。

また、日中の活動量が低下するため、眠りが浅くなることがあります。ちょっとした物音や尿意、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)、睡眠時無呼吸症候群などの症状で夜中に目が覚めてしまうこともあります。

脳波を用いた健康人の年齢と睡眠時間。加齢と共に夜間の平均的な睡眠時間が短くなっているのを表した図表。

対象:5歳から102歳までの3,577人の健康人(1960〜2003年に出版された文献の65研究より抽出した)

方法:睡眠ポリグラフまたはアクチグラフィーにより睡眠時間、睡眠段階1、睡眠段階2、徐波睡眠、レム睡眠を計測し、メタアナリシス解析を実施した。

睡眠段階1、睡眠段階2、徐波睡眠、レム睡眠を合計したところが、睡眠時間となる。
睡眠潜時と中途覚醒は就床後の覚醒時間に入る。

睡眠潜時:寝つくまでにかかる時間
中途覚醒:夜中に目が覚めている時間
レム睡眠:夢を見ている睡眠
徐波睡眠:深い睡眠
睡眠段階1-2:浅い睡眠

Maurice M. Ohayon, et al, Meta-Analysis of Quantitative Sleep Parameters From Childhood to Old Age in Healthy Individuals:Developing Normative Sleep Values Across the Human Lifespan, SLEEP. 2004; 27(7), 1255-1273, by permission of Oxford University Press. を元に作成

まずは生活習慣を改善しよう

各年代に共通することですが、まずは、睡眠衛生の面で問題のある生活習慣を改善することが重要になります。例えば、喫煙。特に本数が多い喫煙は、睡眠を障害することがわかっています10)。寝付けないからといって夜遅くにお酒を飲むことも、睡眠の質を低下させます10)。また、運動習慣も睡眠に関係してきます。全く運動しない人よりある程度規則的な運動習慣を持っている人のほうが眠れることがわかっています10)。ただし、就寝直前の激しい運動は、体が興奮状態になり逆効果になってしまいます。
「健康づくりのための睡眠指針 2014」を参考にご自分の生活習慣を見直してみましょう。

健康づくりのための睡眠指針 2014
~睡眠12箇条~10)

  1. 良い睡眠で、
    からだもこころも健康に。
  2. 適度な運動、しっかり朝食、
    ねむりとめざめのメリハリを。
  3. 良い睡眠は、生活習慣病予防につながります。
  4. 睡眠による休養感は、
    こころの健康に重要です。
  5. 年齢や季節に応じて、
    昼間の眠気で困らない程度の睡眠を。
  6. 良い睡眠のためには、
    環境づくりも重要です。
  7. 若年世代は夜更かし避けて、
    体内時計のリズムを保つ。
  8. 勤労世代の疲労回復・能率アップに、
    毎日十分な睡眠を。
  9. 熟年世代は朝晩メリハリ、
    ひるまに適度な運動で良い睡眠。
  10. 眠くなってから寝床に入り、
    起きる時刻は遅らせない。
  11. いつもと違う睡眠には、要注意。
  12. 眠れない、その苦しみをかかえずに、
    専門家に相談を。

厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針 2014
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf (最終閲覧日:2024年1月15日)

性成熟期

特に若い世代に「生活習慣や食習慣が不規則である」「夜遅くまで起きてインターネットをしている」といった睡眠衛生上の問題が多く見受けられますので、まずは睡眠に悪影響を及ぼしていると思われる生活習慣を改善することを心がけてください。月経前症候群の症状として不眠を訴える人も外来に来られますが、これは睡眠衛生の問題と違って自分で対処できるものではありません。月経前症候群の基本的な治療一つである、ホルモン療法などを行っていく場合があります。

更年期

更年期は女性ホルモンが激しくゆれ動きながら減っていくため、エストロゲンのゆらぎによる変調が不眠や不安・うつなどの症状を訴える方は少なくありません8)。VMSが原因と考えられる場合はホルモン補充療法を行うことがあります。

また、不調の原因として、職場での仕事や人間関係のストレスが影響していることも少なくありません。不眠やうつ・不安は、一つの原因で起こっているわけではなく、様々な要因が絡み合って現れます。そういう場合には、じっくり本人の話をお聞きし、環境調整を行うことも大切になります。

老年期

老年期は加齢により早寝早起きになります9)が、「少しでも長く眠ろう」と長時間床に就いている場合があります。眠くなったら床につくようにし、朝、目が覚めてしまって二度寝ができないようであれば床から出て朝の時間を有意義に使うように指導します。

まとめ

女性の不眠は、女性ホルモンの変動と密接に関係しています。
それぞれのライフステージに特徴的な睡眠の問題について理解し、まずは生活習慣の見直しを行うことが重要です。それでも睡眠の悩みは改善しない場合は、一度医療機関を受診してみてはいかがでしょうか。

取材:
2023年12月オンライン取材(場所 東京医科歯科大学)
  1. 1)Hammond EC, Am J Public Health Nations Health. 1964; 54(1), 11–23
  2. 2)厚生労働省 令和元年国民生活基礎調査, P.56
    https://www.mhlw.go.jp/content/001066903.pdf (最終閲覧日:2024年4月12日)
  3. 3)公益社団法人 日本産科婦人科学会
    https://www.jsog.or.jp/citizen/5717/ (最終閲覧日:2024年4月12日)
  4. 4)公益社団法人 日本産科婦人科学会
    https://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=13 (最終閲覧日:2024年1月1日)
  5. 5)対馬 ルリ子. 更年期1年生, つちや書店, P.26-29, 2019
  6. 6)Kravitz HM, et al. Sleep. 2008; 31(7), 979–990
  7. 7)Tangen T, et al. J Psychosom Obstet Gynaecol 2008. 29, 125-131
  8. 8)寺内 公一. 産科と婦人科, 84(8), 962-967, 2017
  9. 9)内山 真. 睡眠障害の対応と治療ガイドライン 第3版, じほう, P.32-33, 2019
  10. 10)厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針 2014
    https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf (最終閲覧日:2024年4月12日)

1)、6)、7)は海外データです。