1 お酒による睡眠は本当に良い睡眠なのでしょうか?
普段、あまり飲酒をしない人が飲酒すると眠くなります。アルコールには睡眠薬と同様に寝つきを良くする作用があります。また、睡眠の前半では深い睡眠(Stage N3)を増やします。睡眠の前半だけを考えると、確かにぐっすりとした睡眠がとれるのかもしれません。
しかしながら、アルコールは早く吸収され効果が発揮されますが、早く効果がなくなり、その後、離脱に伴う症状が生じます。このため、睡眠後半では深い睡眠を減らし浅い睡眠(Stage N1)が増え、中途覚醒が増えます。
つまり、お酒による睡眠は、確かに夜間の前半ではぐっすり眠れるかもしれませんが、後半は悪くなり、全体的にみると、決して良い睡眠ではないのです。
2 寝酒が習慣化した場合の問題を理解しましょう
飲酒するとよく眠れるからと睡眠薬の代わりに寝酒をされる方がいます。
アルコールは睡眠薬に比べて耐性の生じやすい物質です。前述した睡眠の前半の睡眠促進の効果も数日程度で耐性が生じて効果が減弱します。このため、睡眠をとるために徐々に飲酒量が増えがちになり、アルコール依存症や肝障害を招きかねません。
また、アルコール依存症になると睡眠の量も質も低下してしまい、不眠になる方が増えます。さらに飲酒を中止(断酒)すると、寝つきが悪くなり、睡眠時間が減少し、浅い睡眠が増えるなど不眠が増悪します。また、こうした不眠の悪化は一過性ではなく、1か月以上長期にわたるため、禁酒を止めて飲酒を再開される場合もあります。
つまり、アルコールを睡眠薬の代わりに飲まれることは決して勧められないのです。
3 お酒によるいびき、睡眠時無呼吸に注意しましょう
また、眠る前の飲酒は(閉塞性)睡眠時無呼吸を増悪させます2)。たくさん飲酒すると筋肉の緊張がゆるみ、ふらついたり、言葉がしゃべりにくくなったりします。アルコールは舌やのどの筋肉の緊張を低下させてしまい、舌の沈下などにより咽頭腔が狭くなり、いびきや睡眠中の無呼吸を増やします。特に男性では注意が必要です。睡眠時無呼吸は、呼吸の停止とともに覚醒が生じて夜間の睡眠の分断を生じ中途覚醒が増えたり、熟睡感がなくなるなど不眠の原因となります。閉塞性睡眠時無呼吸による低酸素を生じ、高血圧や虚血性心疾患などの生活習慣病のリスクにもなる3)ので気をつけてください。
- 1)三島和夫 編集:睡眠薬の適正使用・休薬ガイドライン, じほう, P.70-72, 2014
- 2)American Academy of Sleep Medicine, P.61-78
- 3)American Academy of Sleep Medicine Obstructive Sleep Apnea Adult, P.71, 2023