ナルコレプシー

昼間に突然、眠りに落ちてしまうタイプの過眠症です。

1 ナルコレプシーとは

「居眠り病」とも呼ばれます。日中の我慢できない眠気と居眠りが繰り返し生じる「睡眠発作」、笑ったり驚いたりしたときに体の力が入らなくなる「情動脱力発作」が特徴的です。寝入りばなに金縛りにあう「睡眠麻痺」、寝入りばなに現実と区別のつかないような怖い夢をみる「入眠時幻覚」を伴うこともあります1)

2 ナルコレプシーの疫学

ナルコレプシーは決して珍しい疾患ではありません。一般人口中の有病率は正確には不明ですが、欧米では0.02~0.04%、日本では0.16~0.59%との報告があります。つまり1万人あたり16~59人という割合です。多くは10歳代で発症します1)

3 ナルコレプシーの症状

代表的な症状を挙げます1)

3-1 睡眠発作──昼間の激しい眠気、居眠り

毎日の生活のなかで最も問題となるのは、日中の過度の眠気です。大事な試験中や商談中、危険な作業中、恋人とのデートの最中、食事の途中など、通常では考えられない状況で、発作的に我慢できない眠気におそわれ、居眠りをしてしまうことがあります。

重症になると、本人も気づかないうちに眠りこんでしまうこともありますが、通常はまず強い眠気を自覚します。

居眠りは10~20分間持続することが多く、目が覚めたときには爽快感があります。

3-2 情動脱力発作──突然の脱力

怒り、笑い、驚き、喜びなど、感情が動いたときに突然、体の力が入らなくなることを情動脱力発作と呼びます。

発作の長さは2~3秒から数分以内で、速やかに回復しますが、その程度はさまざまです。脱力感を自覚するだけの場合、あるいは舌が回らなくなる、頭や膝がガクンとするといった程度のものから、腰がくだけてへたりこんでしまうものもあります。転倒し、ケガをするおそれも伴います。

3-3 睡眠麻痺──金縛り

睡眠麻酔とは、寝入りばなに生じる一時的な全身脱力症状です。ある程度は意識があるものの、体を動かすことも、声をあげて助けを求めることもできません。いわゆる「金縛り」の状態となるため、多くの場合は恐怖を体験します。
この状態が続くのは数分以内で、自然に回復します。

3-4 入眠時幻覚──リアルで怖い夢

入眠時幻覚とは、寝入ってからまもなく、自分としては目覚めていると感じているときに、鮮明な現実感のある幻覚や、自分の体が宙に浮いて自分を見下ろしているような幻覚を体験することです。

怪しい人影や、化け物などが寝室に侵入してきて危害を加えるというような、怖い幻覚(夢)をみることが多々あります。

上記症状がある場合は、ナルコレプシーの可能性が考えられます。一度医療機関に相談することをお勧めします。

4 ナルコレプシーが及ぼす日常生活への影響

仕事中や授業中に眠ってしまうのは病気のためなのに、職場や学校では「居眠りばかりしている、たるんだ人」「自己管理ができない人」といったレッテルを貼られてしまいがちです。

また、ナルコレプシー自体の認知度が低いため、周囲の人だけでなく本人も、自分が病気かもしれないことに気づいていないケースが少なくないようです。翌日に備え、夜更かしなどしていないのに、昼間、突然おそう睡魔に耐えられずに眠ってしまい、自己嫌悪や無力感に陥ってしまう傾向もみられます。

5 ナルコレプシーの診断

日中の過剰な眠気を訴えるケースで、睡眠発作と情動脱力発作の存在が確認されれば、ナルコレプシーの可能性が高いので、診断・治療のためには専門医療機関での検査が必要です1)。睡眠麻痺と入眠時幻覚は、すべてのナルコレプシーでみられるわけではなく、健康な人にも生じることがあります。情動脱力発作にも薬物治療が行われることがあります。

6 ナルコレプシーの対処法

生活習慣の見直しによって症状の改善がみられる場合があります。

  • 十分な夜間睡眠をとり、規則的な生活を心がけます。
  • 昼休みなどに積極的に短時間の昼寝をすることが、午後の眠気の軽減にある程度有効です。生活スケジュール上で可能なら、数時間に1回ずつ、計画的に昼寝をとることも勧められています2)

7 ナルコレプシーの治療

日中の過度の眠気と睡眠発作に対しては、中枢神経刺激薬が用いられます。夜間に中途覚醒等、不眠症の症状が見られる場合には、夜間の不眠症を改善し、昼間の眠気を少なくするために、不眠症治療薬が処方される場合もあります1)

8 まとめ

ナルコレプシーは、生活に大きな支障をきたすうえに、自動車運転中の事故、転倒によるケガにつながるおそれもあります。ここで紹介した症状に思い当たったら、まずは医療機関に相談してみましょう。

  1. 1)内山 真 編集. 睡眠障害の対応と治療ガイドライン第3版, じほう, P.194-197, 2019
  2. 2)日本睡眠学会ホームページ
    http://jssr.jp/files/guideline/narcolepsy.pdf (最終閲覧日:2022年9月8日)