1 思春期の子どもの不眠とその背景
夜眠れない、日中に強い眠気があるなど、思春期の子どもが睡眠の悩みを抱えていることはめずらしくありません。このような悩みの背景にあるのが、夜更かしや朝寝坊です。
① 平日の夜更かし
思春期(中学生からおおむね18歳まで)から青年期(18歳から30歳未満)は睡眠時間帯が遅れやすい時期であり、思春期になると夜更かしをする子どもが増えてきます1,2)。通学時間の延長や受験勉強、SNS、オンラインゲームなど、夜更かしの要因はたくさんあります。
夜更かしをしても登校時間は変わりません。夜更かしをした分だけ睡眠時間は短くなります。日中に寝不足による眠気に耐えるような状態だと、注意力や集中力を保ちながら授業を受けることは困難です。思春期の睡眠に関する研究によると、睡眠のリズムが一定しない、就寝および起床時刻が遅いことは学力の低さと関連していることが示されています(海外データ)3)。
② 休日の朝寝坊
思春期を含む10歳代の学生は、週末の起床時刻が平日よりも2時間以上遅くなることが、世界共通の傾向として示されています4)。長く寝れば平日の睡眠不足を補えそうにも思えますが、このような習慣を続けることは決して推奨されません。睡眠のリズムをさらに乱してしまう可能性があるからです。
15歳~17歳の学生33名を対象とした介入研究では、土日の就床時刻を1.5時間、起床時刻を3時間遅らせた生活をすると、体内時計が45分遅れることが明らかになっています(海外データ)5)。体内時計の遅れは、平日の登校時間に合わせた起床が難しくなることを意味します。休日もなるべく平日と同様の就床・起床時刻を守ることが望ましいといえるわけです。
③ ブルーライトの刺激
生体リズムの調節、催眠作用のあるホルモンとして知られるのがメラトニンです。通常、メラトニンは夜間に多く分泌されますが、ブルーライトを含んだ明るい光を浴びると分泌が抑制される可能性が指摘されています6)。
ブルーライトは、波長が380~495nm(ナノメートル)の青色光のことで、太陽光や照明器具をはじめ、特に白色、青色LEDが発する光に多く含まれています。
今は多くの中高生がスマートフォンを所持していますが、液晶画面のバックライトにはブルーライトを発するLEDが使用されています。夜更かしや睡眠の質の低下を招かないためにも、このような電子機器の夜間の、特に就寝前の使用は控えましょう。
2 思春期の子どもの不眠、対処のポイント
夜更かしや朝寝坊などによる睡眠の質的低下やリズムの乱れは、どのように正していけばよいのでしょうか。ここからは対処のポイントについて説明します。
① 早寝・早起きより早起き・早寝
たとえば夜遅くに寝る生活が長く続いていると、いくら早くベッドに入ってもなかなか眠れません。このような場合は、“早寝”ではなく“早起き”から始めるとよいでしょう7)。
起きたらまずベランダで日光を浴び、その後は朝食をしっかりとります。最初は起き上がるのもひと苦労ですが、1~2週間続けるうちに、早起きのつらさは減ってきてきます。
② 日中の長時間の昼寝は避ける
日中に長時間の昼寝や仮眠はとるのは、なるべく避けましょう。夜なかなか寝つけず、寝不足のためにまた昼寝をするという悪循環に陥ってしまうことがあるからです。
文部科学省が、小学校5年生から高校3年生までを対象に行った調査では、学校から帰宅後に30分以上の仮眠をとっている子どもほど、午前中の調子が悪いとする回答が多くみられました8)。
中高生では難しいかもしれませんが、昼寝をするのであれば午後の早い時間帯に30分以内にとどめましょう9)。短時間ならば作業効率の改善が期待できるとされています。
③ 睡眠環境を整える
これは思春期の子どもだけでなく、大人にも共通しますが、眠りやすい環境を整えることも大切です。たとえば落ち着きのある色の寝具で統一する、適度な室温を保つなどして、寝室を静かで居心地のよい環境にすると寝付きやすくなるかもしれません。
④ 専門医やかかりつけ医に相談する
上記のような対応をとっても効果がない、あるいは夜更かしや朝寝坊以外に原因があると考えられる場合は、専門医やかかりつけ医に相談してください。思春期の子どもに見られる睡眠障害としては以下のようなものがあります。
- 睡眠時無呼吸症候群10)
- 睡眠中に「①呼吸が止まる②一時的に覚醒する③眠りに入り再び呼吸が止まる」を一晩中繰り返します。このため深い睡眠をとれずに日中に眠気が出現します。
- ナルコレプシー11)
- オレキシンと呼ばれる神経伝達物質を作る神経細胞が働かなくなることで起こる過眠症です。夜に眠れていても、日中に強い眠気が出現し、眠り込んでしまうことがあります。
- レストレスレッグス(むずむず脚)症候群12)
- 夕方から夜に、下肢を中心に「むずむずする」「じっとしていると不快」といった異常な感覚が出現する病気です。このような異常感覚が不眠や過眠を引き起こします。
3 まとめ
思春期の子どもに見られる不眠やその背景、対処のポイントについて紹介しました。睡眠不足による日中の眠気などは、放っておくと学業に影響を及ぼすばかりか、場合によっては不登校につながってしまうこともあります13)。子どもは睡眠の問題をあまり深刻に考えていないことも多いため、親の役割が重要です。睡眠の大切さを理解したうえで、子どもの生活習慣に気を配り、問題がみられた場合は助言をするなどの働きかけを心がけてください。
- 1)厚生労働省 各種法令による児童等の年齢区分
https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-12601000-Seisakutoukatsukan-Sanjikanshitsu_Shakaihoshoutantou/0000096703_1.pdf (最終閲覧日:2023年8月22日) - 2)厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針2014
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf P.38 (最終閲覧日:2023年8月22日) - 3)Wolfson, A.R et al. Sleep Med. Rev. 2003; 7(6), P.491-506
- 4)Gradisar M, et al. Sleep Med. 2011; 12(2), P.110-118
- 5)Crowley SJ, et al. Chronobiol Int. 2010 August; 27(7), 1469-1492
- 6)Wada, et al. Journal of Circadian Rhythms. 2013; 11, P.4
- 7)厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-007.html (最終閲覧日:2023年8月22日) - 8)文部科学省 平成26年度「家庭教育の総合的推進に関する調査研究」睡眠を中心とした生活習慣と子供の自立等との 関係性に関する調査
https://www.mext.go.jp/a_menu/shougai/katei/__icsFiles/afieldfile/2015/04/30/1357460_02_1_1.pdf P.30 (最終閲覧日:2023年8月22日) - 9)厚生労働省 健康づくりのための睡眠指針2014
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf P.11 (最終閲覧日:2023年8月22日) - 10)厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-026.html (最終閲覧日:2023年8月22日) - 11)厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-043.html (最終閲覧日:2023年8月22日) - 12)厚生労働省 e-ヘルスネット
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-068.html (最終閲覧日:2023年8月22日) - 13)文部科学省 早寝早起き朝ごはんで輝く君の未来 (指導者用資料 中学生・高校生等)
https://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/detail/__icsFiles/afieldfile/2019/12/04/1359388_002.pdf P.5 (最終閲覧日:2023年8月22日)